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2011年6月27日 (月)

「日本改造法案大綱」各論考その1、政治改造論(議会制考)

  北は、かく象徴天皇制論、民族主義論、国家主義論、天皇親政クーデター発動論を述べた後、具体的には「三年間憲法を停止し、両院を解散し、全国に戒厳令を布く」と云う。

  戒厳令下で最初に為すことは、華族、貴族院の廃止による宮中の一新、現時の枢密顧問官その他の官吏を罷免、天皇を補佐し得べき器を広く天下に求め天皇を補佐すべき顧問院を設け天皇が任命し議員50名とする、「華族や貴族院を廃止する代わりに審議院を置き衆議院の決議を審議せしむ。その審議院議員は各種の勲功者間の互選及び勅選による」としている。加えて、「特権的官僚閥、軍閥の追放。新たな国家改造を行うための議会と内閣の設置」を指針させている。

  憲法の3年間停止を主張した理由について、北は、二・二六事件の軍法会議法廷に於いて「戒厳令下に於て時局事態を収拾せられるに際し、不忠なるものが憲法に依り貴衆両議会を中心に、天皇の実施せられる国家改造の大権を阻止するを防止する為、論じてあるものであります」と述べている。法廷での北の弁明をもっと知りたいが、これ以上は分からない。どなたかサイトアップ頼む。

  華族、貴族院の廃止、その代わりとしての顧問院の設置なる政策は一考に値する。北理論では天皇の補佐機関として位置づけられているが、これを仮に議会の補佐機関として位置づけるとどうなるか。「器を広く天下に求める」とあることからすれば、政財官学報司警軍の八者機関及び労働界、文化人、スポーツ選手等で有能なる能力を証明したものから構成される機関として焼き直しできる良案ではなかろうか。参議院を有識者に限定縮小し、参議院の中に顧問院を組み込むとかの方法さえ考えられよう。現下の特徴の薄れつつある衆参二院制よりよほど実効的であるように思われる。こういう先駆け提案を随所にしているところが北理論の魅力であろう。

  次に、25歳以上の男子普通選挙の実施を指針させている。「納税資格の拡張せられたる普通選挙の義にあらず。徴兵が国民の義務なりという意義に於いて選挙は国民の権利なり」と位置付けている。「女子の参政権を有せずと」としている。これについては、別章「女性の保護政策考」で触れることにする。

  議会は「改造を協議せしむ」機関として位置づけられている。内閣について、「戒厳令施行中現時の各省の外に下掲の生産的各省を設け、さらに無任所大臣数名を置きて改造内閣を組織す」、「改造内閣員は従来の軍閥、吏閥、財閥、党閥の人々を斥けて全国より広く偉器を選びてこの任に当らしむ」とある。

 これらによれば、象徴天皇制下での議会の積極的活用を主張していることになる。表見的には「天皇親政独裁国家」となるが、南北朝時代の後醍醐天皇の御代の如くの公家政治復古に向かうのではなく、フランス革命以来の近代的な議会政治の役割を強めようとしていることになる。いわば「天皇制議会政治」とでもいうのだろうか。留意すべきは、単に普通選挙により人選するのみでなく、真に優秀な人士を各界から選出し参画させようとしている工夫が認められることである。これが北理論の白眉の第3政策である。戦後憲法では、男子普通選挙のみならず女子の選挙権も与えられているのは衆知の通りである。

 今思うに、戦後憲法下の二院制による議会制民主主義、議院内閣制の結果として菅派政権の如くな愚劣お化けの政治が現出している。日本政治の中枢にありながら合法的な売国政治を上から陣頭指揮しているところに特徴がある。こういう政治を生みださない為の仕掛けが必要であり、戦後憲法体制には何か重要な欠陥があると云うことになるのではなかろうか。これは憲法改正論シフトで云うのではない。護憲的立場から何か一つつっかえ棒が要るのではないかと思う。

 もとへ。北は、天皇制議会政治の翼賛団体として在郷軍人団会議を立ち上げ、改造内閣に直属したる常設機関とし、国家改造中の秩序維持と共に例えば各地方の私有財産限度超過者を調査し、その徴集に当らしむ等々様々な役割を果たさせようとしている。

 在郷軍人とは「かって兵役に服したる者」を云い、「その大多数は農民と労働者なるが故に、同時に国家の健全なる労働階級なり」と看做している。「ロシアの労兵会及びそれに倣いたるドイツその他の労兵会に比する組織である」としている。これによれば、在郷軍人団会議が「愛国的常識を持つ日本式労農ソビエト」と見立てられていることになる。「現在の在郷軍人会そのものにあらず。平等普通の互選により選出される」として民主化を要請している。立法機関を補翼する施行機関的役割を担う機関として活用が目論まれていることになる。これが北理論の白眉の第4政策である。

 してみれば、天皇親政の下で審議院、議会、在郷軍人団会議を三種の神器とする政治体制を構想していたことが分かる。北理論に陥穽があるとすれば、天皇親政、審議院、議会、在郷軍人団会議のそれぞれのベクトルが親和統合された場合の理想であり、対立し始めたらどうなるかであろう。クーデター式強権政治はクーデターによって覆され、それが繰り返されると云う泥沼に嵌まる恐れがなきにしもあらずであろう。そういう危惧があるが、一つの政治体制論としてみなせば傾聴に値するのではなかろうか。

 もう一つは、クーデター発動の権限者として天皇が政治利用される仕掛けにされているが、当の天皇自身の思惑はどうなのかということであろう。分かり易く云えば「有難迷惑」とされる場合もあろうし、時の天皇自身が国際金融資本側に取り込まれていたらどうなるのかという問題がある。現に、この理論的欠陥が2.26事件で露呈し、北自身が刑場に追い込まれることになった。歴史にイフが許されるなら、刑場から奇跡の生還をした北がどういう風に理論改造したか見てみたい。

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