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2011年7月 3日 (日)

「日本改造法案大綱」各論考その12、日本文明論、徴兵制考

 北式日本革命論には、これを単に日本の問題としてではなく、当時の世界情勢に於ける日本解放、アジア解放、世界解放と云う解放ベクトルが介在していたことを知るべきであろう。こういう企て自体をナンセンスとしている今日の基準から批判するのはほどほどにして、敗戦前の当時の思考様式として読み取る必要があるのではなかろうか。 

 北理論は根底で仏教文明をアジア思想の精髄とみなしており、その伝統が日本文化のなかにうけつがれていると捉えていた。北理論は、曰本文明の中に息づいている「仏子の天道」を世界化的に開花させることによって、即ち広宣流布させることによって日本式世界秩序の構築に向かうべしという図式を画き次のように述べている。

 「欧米革命論の権威等ことごとくその浅薄皮相の哲学に立脚して遂に『剣の福音』を悟得するあたわざる時、高遠なるアジア文明のギリシアは率先それ自らの精神に築かれたる国家改造を終ると共に、アジア連盟の義旗を翻して真個到来すべき世界連邦の牛耳を把り、もって四海同胞みなこれ仏子の天道を宣布して東西にその範を垂るべし。国家の武装を忌む者のごときの智見遂に幼童の類のみ」(「緒言」の項)

 北が日蓮系の法華経信者であることは知られている。これによって、日本式仏教文明をアジア思想の核として「仏子の天道」を世界に広宣流布すべしとしているように思える。しかしながら思うに、日蓮系の法華経はそのように戦闘的教義を内蔵しているが、浄土宗、浄土真宗、真言宗、天台宗、禅宗系各派では互いの聴き分けを重視しておりいわば共生的である。日本神道でも、皇国史観系では戦闘的教義を内蔵しているが、それ以前の古神道では自然とも社会とも共生的である。してみれば、日蓮系の法華経の型でもって日本文明を説き、これをアジア、世界に広宣流布せんとするのは少々やり過ぎではなかろうか。北式理論未だ練られておらずと断定する所以である。

 「大綱」は、徴兵制に関して、庸兵制ではない徴兵制を導入すべしとして次のように述べている。「国家は国際間に於ける国家の生存及び発達の権利として現時の徴兵制を永久にわたりて維持す。徴兵猶予一年志願等はこれを廃止す」。「現役兵に対して国家は俸給を給付す。兵営又は軍艦内に於いては階級的表章以外の物質的生活の階級を廃止す。現在及び将来の領土内に於ける異民族に対しては義勇兵制を採用するものあるべし」。

 日本式徴兵制につき次のように賛辞している。「兵営又は軍艦内に於ける将校と兵卒との物質的生活を平等にする所以は自明の理なり。古来将は卒伍の飲食に後れて飲食すというが如く、口腹の欲に過ぎざる飲食に差等を設けて部下の反感を平時に養成し戦時にも改めざる如きはほとんど軍隊組織の大精神を知らざるものなり。敗戦国又は亡国の将校が常に兵卒の粗食飢餓を冷視しておのれ独り美酒佳肴を列べしは一の例外なき史実なり。これに反して皇帝に堕落せざる以前のナポレオン軍の連勝せし精神的原因は、彼の無欲とその物質的生活が兵卒と大差なかりし平等の理解に立ちしが故なり。日本の最も近き将来はナポレオンの軍隊を必要とす。

 乃木将軍が軍事眼より見て許すべからざる大錯誤を為してかの大犠牲を来たせしにも拘わらず、彼が旅順包囲軍より寛過されし理由の一は己自ら兵卒と同じき弁当を食いし平等の義務を履行せしが故なり。士卒を殺して士卒に赦さるる将軍は日本の最も近き将来に於いて千百人といえども足れりとせざる必要あり。まさかに兵卒と同じき飲食にては戦争に堪えずという者あるまじ。これその飲食を為す兵卒が戦争するあたわずというもの。かかる唾棄すべき思想が上級将士を支配するとき、その国の往くべき唯一の途は革命か亡国かなり。労兵会を作らしむべき宮廷の権臣と腐欺将校とは、実に日本に「レニン」の宣伝を導くべき内応者なりというべし。但し家庭等の隊外生活に於いて物質的差別あるべきは兵卒が等しくその範囲に於いて貧富に応じたる自由あるが如し」。

 日本の企業社会における上司と一般社員が社員食堂で同じ飯を食う作風があるが、これが日本の型である。この型が崩れる時、「その国の往くべき唯一の途は革命か亡国かなり」と云う。この言も示唆的である。

 以上で、れんだいこの「日本改造法案大綱」解析を終えるものとする。いろいろ教示される点が多く勉強にはなったと思う。今日的にはいろいろ欠陥も認められるが、かの時代のインテリの方が質が高かったと思える点も多々ある。総評としては好人物だった気がする。諸賢の評を賜りたい。

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