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2011年7月 3日 (日)

「日本改造法案大綱」各論考その10、大東亜共栄圏構想、開戦聖戦考

 「大綱」は、後の大東亜共栄圏構想に繫がる次のような方針を掲げている。将来の新領土として朝鮮、台湾、支那、濠州、インド、極東シベリアまで構想し、日本を「東西文明の融合を支配し得る者地球上只一の大日本帝国あるのみ」と位置づけている。

 「先住の白人富豪を一掃して世界同胞の為に真個楽園の根基を築き置くことが必要なり。単なる地図上の彩色を拡張することは児戯なり。天道宣布の為に選ばれたる日本国民はまさに天譴に亡びんとする英国の二の舞を為さざるは論なし」。「三年後の施政権返還」を構想しており、「理由は、既に移住し居住するほどの者は大体に於いて優秀なるをもってなり。第二に白人の新移住者、インド人、支那人の移住者が取得するところを、既に早く日本国民たりし彼らに拒絶すべき理由なきをもってなり。第三の理由は東西文明の融合を促進する為に、特に日本の思想制度に感化せられたる彼らの移住を急とするが故なり」。

 大東亜共栄圏創造の為に次のように好戦論、聖戦論を弁じている。「支那インド七億の同胞は実に我が扶導擁護を外にして自立の途なし」(「緒言」の項)、「国家は自已防衛の他に不義の強力に抑圧さるる他の国家又は民族の為に戦争を開始するの権利を有す。(即ち当面の現実問題としてインドの独立及び支那の保全の為に開戦する如きは国家の権利なり)」、「国家はまた国家自身の発達の結果他に不法の大領土を独占して人類共存の天道を無視する者に対して戦争を開始するの権利を有す。(即ち当面の現実問題として濠州又は極東シベリアを取得せんが為にその領有者に向って開戦する如きは国家の権利なり)」。

 「他の民族が積極的覚醒の為に占有者又は侵略者を排除せんとする現状打破の自己的行動が正義視せらるる如く正義なり。自利が罪悪にあらざることは自滅が道徳にあらざると同じ。従って利己そのものは不義にあらずして他の正当なる利己を侵害して己を利せんとするに至って正義を逸す」、「日本に加冠せられたる軍国主義とはインド独立のエホバなり。この万軍のエホバを冒涜して誣妄を逞しうするいわゆる平和主義なるものは、その暴戻悪逆を持続せんとしてエホバの怒を怖るる悪魔の甘語なりとす。英人を直訳する輩はレ―ニンを宣伝するよりも百倍の有害なり」。

 北は、戦争には自衛戦争だけでなく、不当に抑圧されている外国や民族を解放するための植民地解放戦争、人類共存を妨げる西欧列強の帝国主義支配に対する戦争があるとしている。西欧列強との抗争を前提にする領土紛争は国家の権利としていた。国内における無産階級(労働者階級)が階級闘争を行うことが正当化されるのであれば、世界の資本家階級であるイギリスや世界の地主であるロシアに対して日本が国際的無産階級として争い、オーストラリアやシベリアを取得するためにイギリス、ロシアに向かって開戦するようなことは国家の権利であると主張していた。世界に与えられた現実の理想は、いずれの国家、いずれの民族が世界統一を成し遂げるかだけであり、日本国民は本書にもとづいてすみやかに国家改造をおこない、日本は世界の王者になるべきであるとしていた。

 結びの「給言」で次のように述べている。「全世界に与えられたる現実の理想は何の国家何の民族が豊臣徳川たり神聖皇帝たるかの一事あるのみ。日本民族は主権の原始的意義、統治権の上の最高の統治権が国際的に復活して、『各国家を統治する最高国家』の出現を覚悟すべし」、「英国を破りてトルコを復活せしめ、インドを独立せしめ、支那を自立せしめたる後は、日本の旭日旗が全人類に天日の光を与うべし。世界の各地に予言されつつあるキリストの再現とは実にマホメットの形をもってする日本民族の経典と剣なり。日本国民は速やかにこの日本改造法案大綱に基づきて国家の政治的経済的組織を改造しもって来るべき史上未曽有の国難に面すべし。日本はアジア文明のギリシアとして既に強露ぺルシャをサラミスの海戦に砕破したり。支那・インド七億民の覚醒実にこの時をもって始まる。戦なき平和は天国の道にあらず」。

 「過去に欧米の思想が日本の表面を洗いしとも今後日本文明の大波濤が欧米を振憾するの日なきを断ずるは何たる非科学的態度ぞ。エジプト、バビロンの文明に代りてギリシア文明あり。ギリシア文明に代りてローマ文明あり。ローマ文明に代りて近世各国の文明あり。文明推移の歴史をただ過去の西洋史に認めてしかも二十世紀に至りてようやく真に融合統一したる全世界史の編纂が始まらんとする時、ひとり世界史と将来とに於いてのみその推移を思考するあたわずとするか。インド文明の西したる小乗的思想が西洋の宗教哲学となり、インドそのものに跡を絶ち、経過したる支那またただ形骸を存してひとり東海の粟島に大乗的宝蔵を密封したるもの。ここに日本化し更に近代化し世界化して来るべき第二大戦の後に復興して全世界を照す時往年のルネサンス何ぞ比するを得べき。東西文明の融合とは日本化し世界化したるアジア思想をもって今の低級なるいわゆる文明国民を啓蒙することに存す。

 天行健なり。国は興り国は亡ぶ。欧州諸国が数百年以上にジンキス汗、オゴタイ汗ら蒙古民族の支配を許さざりし如く、アングロサクソン族をして地球に濶歩せしむるなお幾年かある。歴史は進歩す。進歩に階梯あり。東西を通じたる歴史的進歩に於いて各々その戦国時代につぎて封建国家の集合的統一を見たる如く、現時までの国際的戦国時代につぎて来るべき可能なる世界の平和は、必ず世界の大小国家の上に君臨する最強なる国家の出現によりて維持さるる封建的平和ならざるべからず」。

 次に「インド独立問題」に言及して次のように述べている。第一次世界大戦中に於けるインド独立運動があり失敗したのは、日本が「日英同盟の忠僕」として働いていたことが関係している。今後は、日本が実力援功に向かわねばならない、その為に海上支援を重視し英国海軍を撃破せねばならない。その為に、日本は、英国の海上軍国主義を砕破するに足るべき海軍力を強化し「日本はこの改造に基づく国家の大富力をもって海軍力の躍進的準備を急ぐべし」としている。次に対ロシアとの緊張関係から「支那保全主義を堅持する」としている。「支那保全にかける日英開戦は既に論議時代にあらざるなり」との認識を示している。

 北理論のこういう大東亜共栄圏構想、日本の世界史的使命論をどう窺うべきだろうか。当時の時代的雰囲気が生んだものには相違ない。この雰囲気に乗った以上は北理論的戦略戦術が生まれるのも必然かもしれない。北理論には日本の帝国主義化そのものを疑う視線はない。それ故にこういう展望に至ったのも致し方ないのかと思う。総評をすれば軍略家ではあるが経世家ではない気がする。

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