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2011年11月

2011年11月30日 (水)

1972.10.30日、衆議院における民社党・春日一幸の質問に対する田中首相答弁

 お答えを致します。日中正常化についてまずお答えを致します。

 日中関係の正常化が実現をしたことは、アジアのみならず、世界の平和の基礎を固めるものとして画期的なできごとでございます。その為、多年にわたり努力をしてこられた多くの方々に、重ねて衷心より敬意を表するものでございます。日中国交正常化の実現は、内外に於いてその機が熟した結果、両国が合意に達し得たものと考えております。私は、中国と密度の濃い対話を維持して、せっかく実現を見た正常化を、日中両国民の安寧の為に、また広くアジア全域の安定の為に活用するつもりでございます。

 日中共同声明は、国会の承認を求めるべきだという御議論でございますが、先般の日中共同声明は、政治的には極めて重要な意味を持つものでございますが、法律的合意を構成する文書ではなく、憲法にいう条約ではない訳でありまして、この共同声明につき、国会の承認を求める必要はないのでございます。もっとも、この日中共同声明につきましては、事柄の重要性に鑑み、その内容につきましては、国会に於いて十分ご審議をいただきたいと考えております。

 台湾に対する外交関係、椎名特使の提言、貿易関係、輸銀資金の使用の問題、政府借款等々についてでございます。まず、台湾と我が国の関係について椎名特使の発言は、自由民主党日中国交正常化協議会の審議内容とその決議に基づいて、同特使の見解を説明したものでございます。

 日中国交正常化の結果、台湾と我が国との外交関係は維持できなくなりましたが、政府と致しましては、台湾と我が国との間で民間レベルに於ける人の往来、貿易、経済関係はじめ各種の交流が、今後とも支障なく継続されて行くよう配慮したいと考えております。述べ払い輸出に対する輸銀融資につきましては、具体的案件に則し慎重に勘案をしつつ処理を致したいと考えます。各種の民間交流が続く限り、御質問の各種債権を含め、台湾に在留する邦人の生命、財産等が保護されるよう、できる限り配慮を尽くして参ります。

 それから、台湾条項の消滅、台湾を極東の範囲から除外せよ、駐留なき安保というような問題について、お答えを申し上げます。今回の日中国交正常化は、安保条約に触れることなく達成されたものでありますので、台湾が極東の範囲にはいることについては従前通りであります。しかし、米中間の対話が始まり、台湾を廻る情勢は質的な変化を遂げ、米中間の武力紛争は考えられない事態になっております。従って現状のままで問題はありません。日米共同声明のいわゆる台湾条項についても同様でございます。

 他方、駐留なき安保に向かって条約を改正してはどうかとの提案でございますが、駐留しておることが我が国の安全保障の為必要な抑止力を構成しておると判断をされますので、かかる効果を失わしめるような提案には、遺憾ながら賛成致しかねます。

 平和条約はいつ締結するのかという問題について、お答えを致します。日中平和友好条約は、所用な準備を経て交渉に入りたいと考えております。平和友好条約の具体的内容について予測する段階ではございませんが、その基本的な性格は、将来長きにわたる両国間の平和友好関係を律するような前向きのものとすべきであるというのが、日中双方の一致した見解でございます。アジア集団安全保障の体制の推進、インドシナ半島経済復興資金の創設に対して御発言がございましたが、アジア集団安全保障体制の建設に取り組むべしという着想、ソ連のブレジネフ提案があると承知を致しておるのでございますが、諸般の情勢から各国の反応もまちまちであると承知を致しております。即ち、まだ機が熟していないというのが現実だろうと思う訳でございます。インドシナ半島経済復興基金の創設ということにつきましては、ご意見として承っておきたいと存じます。

 それから、昨日の桜内議員に対する答弁につきまして、私の真意に対する御質問がございましたが、私も速記録を見てみまして、十分私の真意を伝えていないような点もございますので、ここに改めて考え方を申し述べます。

 世界に類例のない我が国憲法の平和主義を堅持して参りますことは、申すまでもないことでございます。その前提には変わりはないのでありますが、無防備中立の考え方と、最小限必要な自衛力を持つと云う私どもの考え方とは合わないのであります。(拍手) この際、明確に致しておきます。第四次防計画を白紙に戻せ等の問題を中心にして、防衛の防衛、基本的な立場、戦略守勢の防御ではなく専守防衛に徹せよ、シビリアンコントロール、国家安全保障会議への改組、長期防衛計画は国会で承認案件にしてはどうかというような問題に合わせ、国土開発、公害の除去等の任務を加えてはどうかと云う問題でございますが、その前提となっております安全保障条約の改廃の問題について申し上げますと、これは申し上げるまでもないことでございますが、独立国である以上、独立を保持し、その国民の生命財産を確保して参る為には防衛力を持たなければならないということは、論のないところでございます。

 理想的には、国連を中心にした集団安全保障体制が確立することが望ましいことでございます。しかし、現実の状態を見ますと、この機溝はは完備せられておりません。スエズが閉ざされても、これを開放する力もありませんし、ご承知のアラブとイスラエルが毎日報復爆撃をやっておっても、これを止めることのできないような状態に於いては、最小限自分で自分を守るだけのことはしなければならぬのであります。(拍手)

 そう云う意味で、最小限度の防衛力を保持するということは当然のことでございますが、しかし、もう一つの理想的な姿としては、自分だけで守るのか、複数以上の集団安全保障の道をとるかということでございますが、これは東側、西側を問わず、自分だけで守ろうという国はないのであります。みんな複数以上で集団安全保障体制をとっております。日本だけがそのれ以外になろうということは、それはできません。そう云う意味で、国民の生命と財産を守らなければならない、しかし、国民負担は最小限度で理想的な防衛体制でなければならないというと、どうしても日米安全保障条約が必要になることは、過去四半世紀近い歴史に明らかなところでございます。(拍手) そう云う意味で、いま日中の国交が正常化をしたとか、アジアの緊張が緩和の方向にあるからといって、日米安全保障条約そのものを廃止するがようなことは、到底考えられないことでございます。(拍手) 

 それから、四次防を持ったことによって日本が軍事大国になるのではないかというような考えは全く持っておりませんし、そのような恐れは全くありません。きのう各国の比較を申し述べたことでも十分承知いただけると思うのでございます。それから、専守防衛ないし専守防御というのは、防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、専ら我が国土及びその周辺に於いて防衛を行うということでございまして、これは我が国防衛の基本的な方針であり、この考え方を変えるということは全くありません。なお戦略守勢も、軍事的な用語としては、この専守防衛と同様のものであります。積極的な意味を持つかのように誤解されない専守防衛と同様の意味を持つものでございます。

 それで、シビリアンコントロールの考えということでございますが、これは国会に存在すると考えますので、安全保障を所管する常任委員会が設けられることが望ましいことだと考えておるのでございます。それから、国防会議を国家安全保障会議に改組する考えはないかと云うことでございますが、現在考えておりません。第四次防のような長期防衛力整備計画は国防会議に諮らなければならないことになっております。これは、国会の議決を要する事項とするよりも、行政府の責任に於いて策定することとした方が適当であるという考え方をもって居るのでございます。国会に於いては、国政調査の対象として判断を仰いでいくほうが適当だと考えるわけでございます。

 それから、自衛隊法に、自衛隊の主たる任務として災害派遣、土木工事の受託等の民生協力を行うこととされております。先般決定された「四次防の主要項目」に於いても、「部隊の施設作業能力を増強して災害派遣その他の民生協力の為の活動を積極的に実施する」ことが明記されておる訳でございます。

 車両制限令の問題で、独断専行的なことにならないかという、大変御同情のある御発言でございますが、そういう心配はございません。車両制限令という問題は、これは道路構造を前提として、道路管理者は全く事務的に許可をしなければならぬのであります。あの道路を長い鉄材を積んで走るトラックに対しては、警察に届け出れば、赤い布をつけて、一般の交通に支障のないようにしなさいよといって、自動的にこれは許可されるのであります。今度の車両の問題については、道路の構造以外の理由によって許可が与えられないという事態が起ったのであります。それは、私が申し上げるまでもなく、そのような事態を放置せば、条約による日本政府の任務さえも遂行できないということになるわけでございまして、その意味で、車両制限令の問題が解決をせられなければならないようになったことは、十分御承知のはずでございます。そういう意味で、この問題はこの問題としてご理解を賜りたいと存ずるわけでございます。

 しかし、我が国の議会制民主政治は、敗戦と云う高価な代償の上に育ち、四半世紀の実績の上に定着を致しております。政治は国民全体のものでございまして、70年代のどの課題をとっても、国民の参加と努力なくして解決できるものはないのでございます。その意味で、民主政治を大事に育てて後代の人々に引き継いでまいりたい、こう念じておるのが私の基本的な姿勢でございます。(拍手)

 経済運営の基本的な方向、また日本列島の改造のビジョン等についての言及がございましたが、明治初年から百年、百年間は、非常に低い国民所得、国民総生産の状態からどんどんと国民総生産が拡大する状況になって参りました。しかも、戦争が終幕をする事態に於いては、非常に困難な状態に立ち至った訳でございますが、しかし、その後四半世紀の間に今日の経済繁栄をもたらしました。そうして日本人がまず考えなければならぬのは、国民総生産を上げて国民所得を如何にして向上させるかということでございます。30年代にこの議場で、八千円の最低賃金を確保する為にどうしなければならぬのかということを真剣に議論したことを考えれば、まさに今昔の感に堪えないではありませんか。

 我々はその意味で、まず、先進工業国である四―ロパ諸国と比肩するような国民所得を確保することができました。しかし、その第一の目標である、ヨーロッパ諸国と同じような国民所得を確保することはできたにしても、それは都市集中という一つの姿に於いて基盤が確保されたのであります。しかし、その都市集中が前提である限り、公害の問題が起って参りました。地価の問題が起って参りました。水の不足が起って参りました。交通を確保する為にも、税金の大きな部分をさかなければならないような事態が起って参った訳でございます。そこで、ここで第二のスタートを要求されるような事態になった訳でございます。それは申すまでもなく、明治二百年展望に立って、我々は新しい視野と立場と角度から、日本の新しい政策を必要とすると云う事態になっておるのであります。(拍手)

 その意味で、生産第一主義から生活中心主義へ転換しなければなりません。公害を伴う重化学工業から知識集約的な産業へと転換をしていかなければならないのであります。そういう努力をしなければならない。また、その努力をすれば、今我々が求めておる問題は解決できるのでございます。それが日本列島改造と云うテーマでございます。国民皆さんの前にこの問題を提案して、そして、まず第一番目の国民所得の向上はできましたから、社会資本の拡充を行い、生活環境を整備し、その土台の上に長期的な日本の社会保障計画を壌み重ねようと云うのが、政治の理想でなくて何でございましょう。(拍手) そう云う立場で、日本列島改造案を提案しておるのでございますから、新しい経済運営の基本は、成長活用型となり、社会保障を中心とした生活重点的なものに切り替えられていくことで、ご了解を賜りたいと存じます。

 また、ご質問の無公害社会の建設について申し上げます。無公害社会の建設は、日本列島改造の目的の一つでございます。公害規制の強化、公害防止技術の開発、工業の全国的配置、いわゆる工場法の制定等を行うとともに、産業構造の知識集約化を進めることによって、公害のない形で成長を確保してまいろうと考えておるのでございます。また、損害賠償保障制度の創設につきましては、公害被害者に救済の実効を期して参りたいと存じます。

 それから土地問題の解決についてでございますが、これは春日さんも申された通り、土地の供給量、絶対量を増やさなければならないのでございまして、土地需要の平準化を図ることと、全国的視野に立った土地利用計画をつくって参らねばなりません。知事及び市町村長を中心とした国土の利用基本法の如きものを早急に作らなければならないと考えております。通常国会には成案を得てご審議をいただきたいのでございますが、皆さんからも適切なる御意見があったら寄せられんことを期待します。(拍手) なお、この基本政策に加えて、投機的な土地の取引を抑制する為、取引の規制、税の活用等についても引き続き検討して参りたいと存じます。

 物価対策について申し上げます。物価の安定は、国民生活の向上と安定の為、基本的問題でございます。しかし、昨日も申し上げました通り、物価は議論の中からだけでは抑制できないのであります。物価と云うものはどういうことによって起るかと云うと、一つには、国民の半分も3分の2もが小さいところに過度に集中すると公害が起ると同じように、物価問題が不可避の問題として起るのであります。(発言する者あり) もう一つは、低生産部門の給与が、高い生産部門の工業と同じように一律的にアップされるところに、物価は押し上げられるのでございます。その意味で、列島改造に拠ることと、低生産部門の構造改善、流通機構の近代化、輸入の促進、競争条件の整備等、各般の施策を広範に行う事によって物価を解決して参ろうと考えております。

 社会保障等につきましては、先ほども申し上げた通り、長期経済計画を立てる時には、その中に長期社会福祉計画も併せて作らなければならないと考えております。急速に高齢化社会を迎えておりますので、老人対策は内政上重要な問題でございます。中でも年金制度につきましては、先般公にされた審議会の意見に沿って、年金額の大幅な引き上げを行ってまいりたいと考えます。年金の充実について長期計画を立てよということでございましたが、先ほども申し上げました通り、これからは社会保障に対しても長期計画、また年金計画を考えなければならないと思いますので、十分検討させていただきたく存じます。

 租税政策に対して御提案がございました。夫婦子供二人を給与所得者の場合130万円まで免税にしたらどうかということでございます。130万円というと、一番高いのが、アメリカの132万4千円というのが、日本よりも高いのでございます。日本現在103万7千円までとなっております。英国においては79万9千円、西ドイツに於いては77万2千円、フランスは103万6千円でございますので、その限りにおいてはヨーロッパ三国を上回っておりますが、アメリカよりもまだ30万円も少ない訳でございますから、できるだけ所要の調整を加えて参らなければならない、こう考えます。(「それは数字のごまかしというんだ」と叫ぶ者あり) これは、数字は今年の数字でございますから、数字にごまかしはありません。(拍手)

 事業主報酬の問題は、法人企業、個人企業、サラリーマン税負担のバランスを充分考えながら、早急に具体的結論を得るよう検討して参ります。

 国際収支対策につきまして申し上げますと、昨年末、多国間通貨調整が実現し、さらに去る5月以降、緊急対策を実施して参りましたが、我が国の貿易収支は引き続き大幅な黒字基調を続けておるのでございます。政府が去る10月20日、対外経済政策の推進について当面とるべき施策を決定し、貿易、資本の自由化、関税の引き下げ、開発途上国への経済協力の拡充等の実施に踏み切り、また、公共投資の追加含む補正予算を今国会に提出をした次第でございます。国際収支につきましては、両3年の間に、経済収支の黒字幅をGNPの1%にし、この1%に当たる数字は、70年度の一番末には開発途上国に対する援助にしようということを世界に明らかに致しておる訳でございます。この両3年以内に経常収支の黒字幅をGNPの1%以内にとどめるということが基本的に必要でございまして、問題解決まであらゆる努力を続けて参りたいと考えております。

 最後に、解散問題について申し上げますが、私が内閣を組織しては以来百十日余でございます。しかし、解決を要する内外の課題は山積を致しておるのでございます。特に円対策は緊急でございます。国民の審判を受ける方向にこれらの諸懸案をぜひ解決しておきたい、こういうのが現在の私の心境でございます。(拍手)

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2011年11月26日 (土)

角栄答弁に対するれんだいこコメント

 「1972.10.30日、衆議院における日本社会党・成田知巳の質問に対する田中首相答弁」に下手な解説はいるまいが一応コメントしておく。

 この答弁を通して、1970年代初頭の日本の国の形、国会質疑の質が確認できよう。今のそれと比べてみるが良い。角栄の質疑に対する真摯な応答、質問の内容を的確に捉えた答弁、その際の論理的弁証的な能力に敬服するが良い。駄弁や曖昧模糊なところが一切なく、見解の相違とするところ、宿題にするところ、取り組むところの別をはっきりさせている。取り組むとなると実効的な指針を打ち出しているのも特徴でもある。

 その際に、角栄の施策が経済的発展を根底に据えて諸事対策しており、その果実として国民福祉に前向きであることを政治の使命としていることが分かり興味深い。現代政治の経済失速施策、その余波としての国民福祉の切り下げ切り捨てぶりに政治力を発揮せんと汲々としている政治家の姿と鮮やかな対比を為している。

 70年代の日本が上り調子だったのに比して現下の日本は下り坂を転げ落ちている。その要因の解明も必要であろう。私見は、意図的故意の悪政の結果だと見立てている。これに伴い、70年代と今日では政治の在り方が根本的に違うところが分かる。そういう意味での現代政治の貧困ぶりを嘲笑すれば良い。

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【1972.10.30日、衆議院における日本社会党・成田知巳の質問に対する田中首相答弁】

成田君の質問に対してお答えを致します。

 まず第一は、日中国交正常化についてでございます。多年にわたり日中関係の改善、両国交流の促進に努力をしてこられた多くの方々に、衷心から敬意を表します。日中国交正常化の実現は、機が熟した結果、両国が合意に達したものと考えておるのでございます。

 第二は、これからの日本の外交はいかにあるべきか、日米安保条約の極東条項、日米共同声明の台湾条項は削除すべきではないかという趣旨の御発言でございますが、世界的に見ても、緊張緩和の傾向が見られますが、アジア全域を見るとき、不安定な要素が残されていることも否定できません。我が国は、平和と独立を守る為に必要な防衛力を整備しなければなりません。(拍手) 米国との安全保障体制は堅持することによって、我が国の安全確保に万全を期す必要があります。(拍手) 我が国の安全は、極東の平和と安全なくして維持し得ないものであって、政府としては、日米安全保障条約の極東条項は、我が国安全確保の為に必要と考えており、これを削除するつもりはありません。(拍手) なお、1969年の日米共同声明のいわゆる台湾条項は、当時の日米首脳の認識が述べられたものでありますが、台湾を廻る情勢は、その後質的な変化を遂げており、これが現実に意味を持つような事態は起らないと考えておるのであります。

 第三は、車両制限等の改正とB52の沖縄大量飛来等、ベトナム戦争についてのことでございますが、政府はベトナム戦争の平和的解決ができますように希望しておるのでございます。近時南北問題が円満な解決の方向に向かっているよう報道せられておることは喜ばしいことでございます。米軍車両の問題につき申し上げますが、8月上旬に米軍車両の通行問題が生じましてから、政府は法令の範囲内で円満に自体の解決が図れるよう、あらゆる努力をして参ったのでございます。しかしながら、通行許可の権限を持つ道路管理者が、道路の管理、保全とは関係のない理由をもって米軍関係の輸送許可を留保するなど、法令の適正な運用が阻害されるような状態が続いたのであります。我が国は、条約上米軍に対して国内における移動の権利を認めており、このような条約上の責任を果たす為に車両制限令を改正せざるを得なかったのであります。(拍手)

  また、B52の沖縄飛来につきましては、条約上我が国はこれを拒否できません。がしかし、国民感情に鑑み、政府として台風避難など真にやむを得ない場合以外は飛来させないよう求めており、米側もこれに応じているのであります。今回の飛来も、台風の接近により止むを得ない措置であり、天候の回復によりその全部がグアム島に戻ったことはご承知の通りであります。(拍手)

 第四問は、四次防は防衛白書に基づいてつくられたものである。政府は、いまなお中国、朝鮮などを強硬外交だと考えておるかどうか、こういうお話でございますが、四次防は、我が国の自衛の為に必要最小限度の防衛力を整備することを目的として決定したものでございまして、去る45年の防衛白書発表当時の情勢に基づいて立案したものではございません。また、ご指摘の中華人民共和国及び朝鮮民主主義人民共和国は、日中外交の正常化や米中の接近並びに朝鮮半島における南北間の対話の開始等に見られますように、事態を平和裏に解決しようとする努力を示しておるものと考えられるのでございます。

 政府は防衛力の限界をどこに置くのかという問題でございますが、四次防は、我が国が自衛の為に必要とする最小限度の防衛力を漸進的に整備するため策定したものであり、防衛力の限界を定めなければ計画の立案ができない性質のものとは考えておりません。しかしながら、我が国の防衛力の規模が、国際情勢、国力、国情に応じ、今後ともどの程度のものを適正とするかを見極める必要がありますので、おおよその整備目標を検討するよう防衛庁に指示をしておるのでございます。

 他方、このたび決定された主要項目の整備において示される5カ年間の防衛費の総額は、一応4兆6千3百億円と見込まれておりますが、これがGNPに占める比率は、経済成長率との対比において、ほぼ現状横ばい程度に推移するものと見込まれ、長期的に見て、今後の経済運営支障となることはないと考えておるのであります。

 四次防、日米安全保障条約の廃棄、日ソ平和条約の締結、日本と中ソ朝との友好不可侵条約の締結等々に対して言及がございました。我が国の防衛力は、自衛のため必要とする最小なものに限られており、かかる四次防において他国を攻撃するような防衛力が計画されていないことは、その内容をご覧いただければ明らかでございます。また、我が国が今後とも平和と安全を享受していく為には、日米安保体制を堅持することが不可欠であると考えておるのでございます。(拍手) 

 日本の防衛費が大きいかどうかと云う問題を例を挙げて申し上げます。防衛と云うものは、よその国の防衛なのではないのであります。自分を含めた国民全体の生命と財産をどう守るかというのであります。(拍手) まず、その防衛体制が妥当であるのかどうかという問題を考えるには、世界の国と比較することも一つの案であります。諸外国との国防費について見ますと、米ソ等の超大国はさておき、西ドイツ、英国、フランスの国防費は、年間2兆円であります。四次防の規模5年間の合計は、西ドイツの1972年の国防費2兆3千億円の丁度半分に過ぎないのであります。GNPとの対比につきましても、これら諸国の国防費は、GNPの3ないし5%を占めております。中立国スウェーデンにおいても約4%なのであります。スイスは約2%であります。(拍手) 国民一人当たりの国防費につきましても、西ドイツ、英、仏にありましては年間4万円に近く、我が国の一人当たり約8千円は、その5分の1でございます。(拍手) 中立国スウェーデンは約5万7千円であって、我が国の7倍。スイスも約2万7千円で、我が国の3.5倍の防衛費を負担しておるのであります。(拍手)

 このように、各国はそれぞれ自国の防衛の為に努力を払っておることを知らなければなりません。(拍手) その意味から考えてみましても、我が国においても、この程度の負担をするのは止むを得ないことだと思うのでございます。(拍手) 非武装中立論を前提にして国防論や防衛論をする方々との間には意見の相違があることは止むをえませんが、しかし、国防や防衛と云う問題をそのような観念論によって律することはできないのであります。(拍手)

 なお、ご発言がございました日中ソ朝友好不可侵条約の御構想については、その内容を十分承知する前に意見を申し述べることは差し控えますが、それが直ちに日米安全保障条約の廃棄、四次防の中止あるいは自衛隊の削減に結び付くものとの考えをとる必要はないと思います。なお、政府が、日ソ平和条約の締結について各般の努力を重ねていることは、グロムイコ外相の来日、大平外務大臣の訪ソを見ても明らかなことでございますので、ご了承賜りたいと存じます。

 なお、ここで一言申し上げておきますが、周囲の情勢が変わってきたからといって、日米安全保障条約を廃棄しなければならないというような端的な議論には与しないのでございます。(拍手) それは、東西両ドイツの間に雪解けの状態があり、独ソ条約が締結せられる現状においても、NATО締約国の国々は、この条約を廃棄しようとはしておられないではありませんか。(拍手) 自らの見識において、自らの責任において、どうして自らを守るかと云うことについては、数字に立って、現実を直視して、後代の為にも誤りのないように努力をすべきであると思います。(拍手)

 これから経済運営について申し上げます。

 一人当たりの国民所得は、ほぼ西欧水準に達しました。しかし反面、公害、住宅、社会保障等の問題が生じて参りました。政府は従来の生産、輸出の経済運営を改め、成長の成果を活用し、国民福祉の充実をはかるような方向に政策の方針を転換して参ります。私の提唱した日本列島改造案も、こうした国民福祉充実の為の基礎条件を整備することを目的と致しておるのでございます。

 公害と生産の調整について申し上げます。住民の生活環境を破壊せず、自然を注意深く保全しながら、地域開発を進めなければなりません。志布湾等の大規模工業基地の開発に当たっては、我が国の国土利用の在り方、その地域の生活水準の向上と並んで、環境の保全が最も大きな問題であります。従って、その開発が環境に及ぼす影響を科学的なデータに基づいて十分チェックし、環境保全について十分な調整のうえ、しか地元住民の理解と協力のもとにその方向を決定すべきものであります。発生源からの汚染物質の排出等の規制については、これを一層強化して参りますが、一歩進めて総量規制など、適切かつ合理的な規制方式を検討して参りたいと存じます。

 汚染の原因者が公害防止費用を負担すべきであるという考え方につきましては、我が国の制度は既にそのような考え方によっておるところでございます。企業が汚染者負担の原則を貫き、公害防止に万全を尽くさなければならないことは当然でございます。その上で、政府、地方公共団体も公害問題の早急な解決の為に最善の施策を講じなければなりません。公害訴訟における因果関係の立証につきましても、実際上なかなか困難な問題がございます。最近の判例では、因果関係の認定について緩やかな方向が出ておりますが、因果関係の推定については、このような判例の方向を見守りつつ、その法制化については、引き続き検討して参りたいと存じます。

 公害に対する立ち入り検査権の問題でございますが、現行の公害規制法において、工場等に対する立ち入り調査権は都道府県知事が行うことになっておるのでございます。政府としては、都道府県知事などが立ち入り検査を適切に行うことにより、地域住民の期待にこたえるよう、十分指導して参りたいと存じます。

 第九は、工業用地と農用地の問題でございますが、農業は国民の食糧を確保するとともに、国土を保全し、国民の生活環境を維持していくのに重要な役割を果たしておることはご承知の通りでございます。従って、優良な農用地を十分確保すべきであり、また、工業用地の確保に当たっては、合理的な土地利用を計画的に行うことにより、十分農用地との調整を図って参るつもりでございます。

 老人医療無料化等についての御発言について申し上げます。

 老人医療無料化等につきましては、70歳以上の者を対象として48年1月から実施をするものでございますが、年齢を65歳まで引き下げることについては、今後の実施状況を見たうえで考えたいと思っておるのでございます。乳幼児等の医療無料化につきましては、現在、未熟児など、保健上特に必要なものを対象として公費負担を行っておりますが、これを乳幼児の疾病一般にまで拡大をすることにつきましては、今後慎重に検討して参ります。

 年金について申し上げます。

 先般公にされた関係審議会の意見を考慮して、年金額について大幅な引き上げを行うとともに、物価上昇等の経済変動に対応して年金額を調整し得る措置を講ずる等、年金制度の整備充実を図って参りたいと考えます。年金の財政方式を直ちに賦課方式に移行してはどうかという問題でございますが、当面は現行の修正積み立て方式を、実情に即した配慮を加えながら維持していくことが適当ではないかと考えられるのでございます。年金積み立て金の運用のうち、加入者の福祉増進に直接寄与する分野に充てられる還元融資につきましては、明年度からその融資枠を、積立金の4分の1から3分の1に拡大する方針でございます。

 物価の問題について申し上げます。

 物価の安定は、国民生活の向上と安定の為に基本的課題でございます。しかし、国土の1%の地域に3千2百万人の人口が集中しておるという事実を前提にする限り、物価問題の根本的な解決は困難なのであります。従って、日本列島改造政策を根幹に据えつつ、低生産部門の構造改善、流通機構の近代化、輸入の促進、競争条件の整備などの施策を進めて参ることにより、物価安定に寄与して参りたいと考えます。(拍手)

 地価安定政策に対して答弁申し上げます。

 一定規模以上の土地の取得について何らかの規制措置については、民間の取引件数、取引態様等を勘案して、最も適切かつ効率的に土地取引を規制する措置を検討して参りたいと考えます。税制上の措置によってのみ土地需給の不均衡を図ることは、自ずから限界がございますが、法人の所有する土地について何らかの税制上の措置を講ずべきかどうかについても検討を続けます。現行の地代家賃統制令を全ての土地について適用することは、必要な貸し地の供給を阻害し、住宅の供給を抑制する恐れがありますので、適切な手段とは考えられません。むしろ、公的住宅の大量建設とともに、低利融資、税制上の措置等により民間住宅の供給を促進することにより、需給関係の緩和を通じて地代、家賃の適正化を図っていくべきものと考えられるのでございます。

 人間を尊重する政治に流れを変えること、この御説に対して申し上げます。

 私の日本列島改造の狙いとするところは、福祉が成長を生み、成長が福祉を約束すると云う、成長活用の経済環境のもとで過密と過疎の同時解消、公害の追放、物価の安定などをダイナミックに進めて、国民が安心して暮らせる、住みよい、豊かな日本をつくることにございます。具体的な処方箋につきましては、国民各位の理解と支持を得ながら、決断し、実行して参ります。(拍手)

 公害法改正問題がございましたが、公害法問題に関しましては、公労法制定以来24年を経過を致しております。内外情勢も法制定当時から大きく変化を致しておりますので、公務員制度審議会に於いて、諮問に対する速やかな結論が出せることを期待しておるのが現状でございます。

 最後に、政治資金規正法につきまして申し上げます。

 政党政治の象徴、我が国の議会制民主主義の将来に関わる重大問題でありますが、幾たびか改正法案が国会に提案をされ、廃案になった経緯があることは、周知の通りでございます。これを今日の時点に於いて見ると、金のかかる選挙制度あるいは政党の在り方をそのままにして具体化するということにいろいろと無理があることを示しているように思いますが、工夫によっては、その方法も見出し得るものと考えられるのでございます。特に、現在、政党本位の、金のかからない選挙制度について選挙制度審議会で鋭意審議している時でもございますので、このような情勢を踏まえ、徹底した検討と論議を積み重ねて参りたいと考えるのでございます。以上。(拍手)

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