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2011年11月30日 (水)

1972.10.30日、衆議院における民社党・春日一幸の質問に対する田中首相答弁

 お答えを致します。日中正常化についてまずお答えを致します。

 日中関係の正常化が実現をしたことは、アジアのみならず、世界の平和の基礎を固めるものとして画期的なできごとでございます。その為、多年にわたり努力をしてこられた多くの方々に、重ねて衷心より敬意を表するものでございます。日中国交正常化の実現は、内外に於いてその機が熟した結果、両国が合意に達し得たものと考えております。私は、中国と密度の濃い対話を維持して、せっかく実現を見た正常化を、日中両国民の安寧の為に、また広くアジア全域の安定の為に活用するつもりでございます。

 日中共同声明は、国会の承認を求めるべきだという御議論でございますが、先般の日中共同声明は、政治的には極めて重要な意味を持つものでございますが、法律的合意を構成する文書ではなく、憲法にいう条約ではない訳でありまして、この共同声明につき、国会の承認を求める必要はないのでございます。もっとも、この日中共同声明につきましては、事柄の重要性に鑑み、その内容につきましては、国会に於いて十分ご審議をいただきたいと考えております。

 台湾に対する外交関係、椎名特使の提言、貿易関係、輸銀資金の使用の問題、政府借款等々についてでございます。まず、台湾と我が国の関係について椎名特使の発言は、自由民主党日中国交正常化協議会の審議内容とその決議に基づいて、同特使の見解を説明したものでございます。

 日中国交正常化の結果、台湾と我が国との外交関係は維持できなくなりましたが、政府と致しましては、台湾と我が国との間で民間レベルに於ける人の往来、貿易、経済関係はじめ各種の交流が、今後とも支障なく継続されて行くよう配慮したいと考えております。述べ払い輸出に対する輸銀融資につきましては、具体的案件に則し慎重に勘案をしつつ処理を致したいと考えます。各種の民間交流が続く限り、御質問の各種債権を含め、台湾に在留する邦人の生命、財産等が保護されるよう、できる限り配慮を尽くして参ります。

 それから、台湾条項の消滅、台湾を極東の範囲から除外せよ、駐留なき安保というような問題について、お答えを申し上げます。今回の日中国交正常化は、安保条約に触れることなく達成されたものでありますので、台湾が極東の範囲にはいることについては従前通りであります。しかし、米中間の対話が始まり、台湾を廻る情勢は質的な変化を遂げ、米中間の武力紛争は考えられない事態になっております。従って現状のままで問題はありません。日米共同声明のいわゆる台湾条項についても同様でございます。

 他方、駐留なき安保に向かって条約を改正してはどうかとの提案でございますが、駐留しておることが我が国の安全保障の為必要な抑止力を構成しておると判断をされますので、かかる効果を失わしめるような提案には、遺憾ながら賛成致しかねます。

 平和条約はいつ締結するのかという問題について、お答えを致します。日中平和友好条約は、所用な準備を経て交渉に入りたいと考えております。平和友好条約の具体的内容について予測する段階ではございませんが、その基本的な性格は、将来長きにわたる両国間の平和友好関係を律するような前向きのものとすべきであるというのが、日中双方の一致した見解でございます。アジア集団安全保障の体制の推進、インドシナ半島経済復興資金の創設に対して御発言がございましたが、アジア集団安全保障体制の建設に取り組むべしという着想、ソ連のブレジネフ提案があると承知を致しておるのでございますが、諸般の情勢から各国の反応もまちまちであると承知を致しております。即ち、まだ機が熟していないというのが現実だろうと思う訳でございます。インドシナ半島経済復興基金の創設ということにつきましては、ご意見として承っておきたいと存じます。

 それから、昨日の桜内議員に対する答弁につきまして、私の真意に対する御質問がございましたが、私も速記録を見てみまして、十分私の真意を伝えていないような点もございますので、ここに改めて考え方を申し述べます。

 世界に類例のない我が国憲法の平和主義を堅持して参りますことは、申すまでもないことでございます。その前提には変わりはないのでありますが、無防備中立の考え方と、最小限必要な自衛力を持つと云う私どもの考え方とは合わないのであります。(拍手) この際、明確に致しておきます。第四次防計画を白紙に戻せ等の問題を中心にして、防衛の防衛、基本的な立場、戦略守勢の防御ではなく専守防衛に徹せよ、シビリアンコントロール、国家安全保障会議への改組、長期防衛計画は国会で承認案件にしてはどうかというような問題に合わせ、国土開発、公害の除去等の任務を加えてはどうかと云う問題でございますが、その前提となっております安全保障条約の改廃の問題について申し上げますと、これは申し上げるまでもないことでございますが、独立国である以上、独立を保持し、その国民の生命財産を確保して参る為には防衛力を持たなければならないということは、論のないところでございます。

 理想的には、国連を中心にした集団安全保障体制が確立することが望ましいことでございます。しかし、現実の状態を見ますと、この機溝はは完備せられておりません。スエズが閉ざされても、これを開放する力もありませんし、ご承知のアラブとイスラエルが毎日報復爆撃をやっておっても、これを止めることのできないような状態に於いては、最小限自分で自分を守るだけのことはしなければならぬのであります。(拍手)

 そう云う意味で、最小限度の防衛力を保持するということは当然のことでございますが、しかし、もう一つの理想的な姿としては、自分だけで守るのか、複数以上の集団安全保障の道をとるかということでございますが、これは東側、西側を問わず、自分だけで守ろうという国はないのであります。みんな複数以上で集団安全保障体制をとっております。日本だけがそのれ以外になろうということは、それはできません。そう云う意味で、国民の生命と財産を守らなければならない、しかし、国民負担は最小限度で理想的な防衛体制でなければならないというと、どうしても日米安全保障条約が必要になることは、過去四半世紀近い歴史に明らかなところでございます。(拍手) そう云う意味で、いま日中の国交が正常化をしたとか、アジアの緊張が緩和の方向にあるからといって、日米安全保障条約そのものを廃止するがようなことは、到底考えられないことでございます。(拍手) 

 それから、四次防を持ったことによって日本が軍事大国になるのではないかというような考えは全く持っておりませんし、そのような恐れは全くありません。きのう各国の比較を申し述べたことでも十分承知いただけると思うのでございます。それから、専守防衛ないし専守防御というのは、防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、専ら我が国土及びその周辺に於いて防衛を行うということでございまして、これは我が国防衛の基本的な方針であり、この考え方を変えるということは全くありません。なお戦略守勢も、軍事的な用語としては、この専守防衛と同様のものであります。積極的な意味を持つかのように誤解されない専守防衛と同様の意味を持つものでございます。

 それで、シビリアンコントロールの考えということでございますが、これは国会に存在すると考えますので、安全保障を所管する常任委員会が設けられることが望ましいことだと考えておるのでございます。それから、国防会議を国家安全保障会議に改組する考えはないかと云うことでございますが、現在考えておりません。第四次防のような長期防衛力整備計画は国防会議に諮らなければならないことになっております。これは、国会の議決を要する事項とするよりも、行政府の責任に於いて策定することとした方が適当であるという考え方をもって居るのでございます。国会に於いては、国政調査の対象として判断を仰いでいくほうが適当だと考えるわけでございます。

 それから、自衛隊法に、自衛隊の主たる任務として災害派遣、土木工事の受託等の民生協力を行うこととされております。先般決定された「四次防の主要項目」に於いても、「部隊の施設作業能力を増強して災害派遣その他の民生協力の為の活動を積極的に実施する」ことが明記されておる訳でございます。

 車両制限令の問題で、独断専行的なことにならないかという、大変御同情のある御発言でございますが、そういう心配はございません。車両制限令という問題は、これは道路構造を前提として、道路管理者は全く事務的に許可をしなければならぬのであります。あの道路を長い鉄材を積んで走るトラックに対しては、警察に届け出れば、赤い布をつけて、一般の交通に支障のないようにしなさいよといって、自動的にこれは許可されるのであります。今度の車両の問題については、道路の構造以外の理由によって許可が与えられないという事態が起ったのであります。それは、私が申し上げるまでもなく、そのような事態を放置せば、条約による日本政府の任務さえも遂行できないということになるわけでございまして、その意味で、車両制限令の問題が解決をせられなければならないようになったことは、十分御承知のはずでございます。そういう意味で、この問題はこの問題としてご理解を賜りたいと存ずるわけでございます。

 しかし、我が国の議会制民主政治は、敗戦と云う高価な代償の上に育ち、四半世紀の実績の上に定着を致しております。政治は国民全体のものでございまして、70年代のどの課題をとっても、国民の参加と努力なくして解決できるものはないのでございます。その意味で、民主政治を大事に育てて後代の人々に引き継いでまいりたい、こう念じておるのが私の基本的な姿勢でございます。(拍手)

 経済運営の基本的な方向、また日本列島の改造のビジョン等についての言及がございましたが、明治初年から百年、百年間は、非常に低い国民所得、国民総生産の状態からどんどんと国民総生産が拡大する状況になって参りました。しかも、戦争が終幕をする事態に於いては、非常に困難な状態に立ち至った訳でございますが、しかし、その後四半世紀の間に今日の経済繁栄をもたらしました。そうして日本人がまず考えなければならぬのは、国民総生産を上げて国民所得を如何にして向上させるかということでございます。30年代にこの議場で、八千円の最低賃金を確保する為にどうしなければならぬのかということを真剣に議論したことを考えれば、まさに今昔の感に堪えないではありませんか。

 我々はその意味で、まず、先進工業国である四―ロパ諸国と比肩するような国民所得を確保することができました。しかし、その第一の目標である、ヨーロッパ諸国と同じような国民所得を確保することはできたにしても、それは都市集中という一つの姿に於いて基盤が確保されたのであります。しかし、その都市集中が前提である限り、公害の問題が起って参りました。地価の問題が起って参りました。水の不足が起って参りました。交通を確保する為にも、税金の大きな部分をさかなければならないような事態が起って参った訳でございます。そこで、ここで第二のスタートを要求されるような事態になった訳でございます。それは申すまでもなく、明治二百年展望に立って、我々は新しい視野と立場と角度から、日本の新しい政策を必要とすると云う事態になっておるのであります。(拍手)

 その意味で、生産第一主義から生活中心主義へ転換しなければなりません。公害を伴う重化学工業から知識集約的な産業へと転換をしていかなければならないのであります。そういう努力をしなければならない。また、その努力をすれば、今我々が求めておる問題は解決できるのでございます。それが日本列島改造と云うテーマでございます。国民皆さんの前にこの問題を提案して、そして、まず第一番目の国民所得の向上はできましたから、社会資本の拡充を行い、生活環境を整備し、その土台の上に長期的な日本の社会保障計画を壌み重ねようと云うのが、政治の理想でなくて何でございましょう。(拍手) そう云う立場で、日本列島改造案を提案しておるのでございますから、新しい経済運営の基本は、成長活用型となり、社会保障を中心とした生活重点的なものに切り替えられていくことで、ご了解を賜りたいと存じます。

 また、ご質問の無公害社会の建設について申し上げます。無公害社会の建設は、日本列島改造の目的の一つでございます。公害規制の強化、公害防止技術の開発、工業の全国的配置、いわゆる工場法の制定等を行うとともに、産業構造の知識集約化を進めることによって、公害のない形で成長を確保してまいろうと考えておるのでございます。また、損害賠償保障制度の創設につきましては、公害被害者に救済の実効を期して参りたいと存じます。

 それから土地問題の解決についてでございますが、これは春日さんも申された通り、土地の供給量、絶対量を増やさなければならないのでございまして、土地需要の平準化を図ることと、全国的視野に立った土地利用計画をつくって参らねばなりません。知事及び市町村長を中心とした国土の利用基本法の如きものを早急に作らなければならないと考えております。通常国会には成案を得てご審議をいただきたいのでございますが、皆さんからも適切なる御意見があったら寄せられんことを期待します。(拍手) なお、この基本政策に加えて、投機的な土地の取引を抑制する為、取引の規制、税の活用等についても引き続き検討して参りたいと存じます。

 物価対策について申し上げます。物価の安定は、国民生活の向上と安定の為、基本的問題でございます。しかし、昨日も申し上げました通り、物価は議論の中からだけでは抑制できないのであります。物価と云うものはどういうことによって起るかと云うと、一つには、国民の半分も3分の2もが小さいところに過度に集中すると公害が起ると同じように、物価問題が不可避の問題として起るのであります。(発言する者あり) もう一つは、低生産部門の給与が、高い生産部門の工業と同じように一律的にアップされるところに、物価は押し上げられるのでございます。その意味で、列島改造に拠ることと、低生産部門の構造改善、流通機構の近代化、輸入の促進、競争条件の整備等、各般の施策を広範に行う事によって物価を解決して参ろうと考えております。

 社会保障等につきましては、先ほども申し上げた通り、長期経済計画を立てる時には、その中に長期社会福祉計画も併せて作らなければならないと考えております。急速に高齢化社会を迎えておりますので、老人対策は内政上重要な問題でございます。中でも年金制度につきましては、先般公にされた審議会の意見に沿って、年金額の大幅な引き上げを行ってまいりたいと考えます。年金の充実について長期計画を立てよということでございましたが、先ほども申し上げました通り、これからは社会保障に対しても長期計画、また年金計画を考えなければならないと思いますので、十分検討させていただきたく存じます。

 租税政策に対して御提案がございました。夫婦子供二人を給与所得者の場合130万円まで免税にしたらどうかということでございます。130万円というと、一番高いのが、アメリカの132万4千円というのが、日本よりも高いのでございます。日本現在103万7千円までとなっております。英国においては79万9千円、西ドイツに於いては77万2千円、フランスは103万6千円でございますので、その限りにおいてはヨーロッパ三国を上回っておりますが、アメリカよりもまだ30万円も少ない訳でございますから、できるだけ所要の調整を加えて参らなければならない、こう考えます。(「それは数字のごまかしというんだ」と叫ぶ者あり) これは、数字は今年の数字でございますから、数字にごまかしはありません。(拍手)

 事業主報酬の問題は、法人企業、個人企業、サラリーマン税負担のバランスを充分考えながら、早急に具体的結論を得るよう検討して参ります。

 国際収支対策につきまして申し上げますと、昨年末、多国間通貨調整が実現し、さらに去る5月以降、緊急対策を実施して参りましたが、我が国の貿易収支は引き続き大幅な黒字基調を続けておるのでございます。政府が去る10月20日、対外経済政策の推進について当面とるべき施策を決定し、貿易、資本の自由化、関税の引き下げ、開発途上国への経済協力の拡充等の実施に踏み切り、また、公共投資の追加含む補正予算を今国会に提出をした次第でございます。国際収支につきましては、両3年の間に、経済収支の黒字幅をGNPの1%にし、この1%に当たる数字は、70年度の一番末には開発途上国に対する援助にしようということを世界に明らかに致しておる訳でございます。この両3年以内に経常収支の黒字幅をGNPの1%以内にとどめるということが基本的に必要でございまして、問題解決まであらゆる努力を続けて参りたいと考えております。

 最後に、解散問題について申し上げますが、私が内閣を組織しては以来百十日余でございます。しかし、解決を要する内外の課題は山積を致しておるのでございます。特に円対策は緊急でございます。国民の審判を受ける方向にこれらの諸懸案をぜひ解決しておきたい、こういうのが現在の私の心境でございます。(拍手)

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