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2013年2月20日 (水)

「三船留吉、小林多喜二を売った男」説について

 今日2.20日は戦前のプロレタリア作家にして拷問虐殺された小林多喜二の命日である。これを踏まえて東京新聞の「筆洗」、その他数紙が言及している。れんだいこも追悼しておく。2008.6.29日に書き終えブログには未発表にしていた一文を転載しておく。2004.6.28日に「戦前日共史(補足)スパイ三船留吉考」を発表しており、その続編となる。格納サイトは以下の通り。

 「補足・スパイ三船留吉考」
 (http://www.marino.ne.jp/~rendaico/marxismco/nihon/senzennikkyoshico/hosoku_mifuneco.htm

 「蟹工船」がベストセラー化しつつあると云う。ワーキングプアーが蟹工船労働者の姿と二重写しとなり、労働者が立ち上がる姿に共鳴し、せめて小説の中だけでも鬱憤を晴らしたいと云う情動が働いているのだろう。れんだいこは、高校生時代に読み感想記をものした覚えがあるが、あたら惜しい事に散逸している。どういう風に受け止めていたのか知りたいが、その術がない。

 ところで、小林多喜二に関連して、2004.5.1日、くらせみきお著「小林多喜二を売った男」(白順社)が発売されている。れんだいこは既に2004.6.28日づけで「戦前日共史(補足)スパイ三船留吉考」で論評しているが再度書評しておく。れんだいこが我慢ならない観点から著述されており、こういう通説が流布されることを人民大衆的に拒否せんが為である。

 本書も叉「一見精緻な研究」とは裏腹に「読めば読むほど馬鹿になる仕掛け」になっている。精緻な研究がむしろマジック的な煙幕となって誤誘導的結論へ誘う手段となっている。多くの人は、「精緻な研究」辺りで既に騙されてしまう。最近はこういう類いの悪書が多い。

 ヤング諸君が「蟹工船」を読むのなら、ついでにれんだいこの一連の研究にも目を通せば良い。れんだいこが時々に於いて興味、疑問を覚えた事項に対して、まずはれんだいこ自身が得心できるように工夫して精力的に検証している。そのでき映えは、性格の悪い御仁からの悪罵に堪え、ますます光芒を放ちつつある。尤も不断に書き直ししている。

 ヤング諸君、是非感想を伝えてくれ。こちらは学者でもない教授でもない何の肩書きも権威もない一市井人でしかないが侮ってはいけない。同じ事を論じても、そんじょそこらの通俗本よりはよほど為になるよう要点をしっかり捉まえ、今後論ずる際の基準になるような観点を打ち出している。ここにれんだいこ文の特徴がある。これに対話して欲しい。叩き台にして欲しい。

 しかしそれにしても左派戦線からの締め出しがきつい。れんだいこブログは公開して既に十年近くなろうとしている。結構な論議を生むであろう内容を提起している筈であるが、まともな批判に出会ったことがない。いわゆる無視されている訳であるが、にも拘らずれんだいこの指摘が万力攻め的に作用しつつあるとしたら滑稽なことである。

 さて、話を「小林多喜二を売った男」に戻す。題名からしてズバリ「小林多喜二を売った男・三船留吉説」を打ち出しているが、この説は果たして本当だろうか。まず何よりここを詮索せねばならない。ここを詮索せぬまま立花隆のように「もともと根っからのスパイ」、「当局の雇われスパイではなく、当局の人間そのものだったのではないかとも考えている」なる見解は、通説に徒に悪乗りしているだけなのではなかろうか。

 「小林多喜二を売った男・三船留吉説」は重要な史実を隠している。何かというと、この説が、かの宮顕肝煎りの説だということにある。れんだいこは、「宮顕論」(http://www.marino.ne.jp/~rendaico/marxismco/nihon/miyakenco/miyakenco.htm)で、「宮顕その人こそがスパイM以降の、スパイMに成り代わってその後の日共を統治した超大物スパイ説」を打ち出している。この観点によれば、日共党史は無論、日本左派運動史を根底から書き直さなければならなくなる。「れんだいこの宮顕論」にはそういう凄みがある。こういうことは本当は誰かに云って貰わなければサマにならないのだけれども、れんだいこ自身が言わざるを得ない情けなさがある。

 それはともかく、初めてこの説を聞く者には衝撃が多過ぎて、れんだいこを誹謗し始める者が殆どであるが、こういう場合には先ず史実検証で論を闘わせねばならない。この手間を取らぬままれんだいこ説を誹謗する者は単にドグマにしがみついているだけに過ぎない。そう云われるのが嫌なら、「れんだいこの宮顕論」を逐条検討すれば良かろう。れんだいこは、「宮顕獄中十二年、唯一非転向完黙人士説」を完膚なきまでに打ち砕いている。この虚像を信奉し、未だに聖像視し、お追従する者達の安逸な精神を批判している。

 くらせみきお著「小林多喜二を売った男」の陳腐さは、宮顕説の尻馬に乗って、三船留吉を「小林多喜二を売った男」としているところにある。この場合、1・三船留吉スパイ論の検証、2・「小林多喜二を売った男・三船留吉説」の検証の二本立てにしなければならない。前者をいくら繰り返しても後者には辿り着かない。後者を成り立たせるためには後者自体を裏付ける因果関係が証明されねばならない。これが真っ当な検証方法であろう。

 くらせみきお著「小林多喜二を売った男」の凡俗さは、前者を後者に混同させて、つまりすり替えてひたすら「小林多喜二を売った男」と云う結論へと導き、押し付けているところにある。しかし、事情に明るいものなら胡散臭く思うであろう。この当時の小林多喜二の身辺は非常にキナ臭くせっぱ詰まっており、その連絡線は党の最高機密になっており、三船如きの下っ端連絡線に結ばれていたとすること自体が嘘っぽい。

 多喜二は文芸畑の党員であり、当然その筋の大物指令により地下活動していたと思うべきだろう。三船は畑が違うのではないのか。となると、この当時の文芸畑の大物として詮索されるのは蔵原か宮顕こそが臭い。つまり、「小林多喜二を売った男・三船留吉説」は、蔵原か宮顕が臭いと勘ぐられるべきところを三船にすり替えていると云う政治的意味がある。しかし、よりによって、勘ぐられねばならない当の張本人である宮顕が三船スパイ説を流しているというオマケつきである。

 こういう場合、「小林多喜二を売った男・三船留吉説」そのものが胡散臭く受け取られねばならない。普通の頭脳さえあれば、そういう推論になる。それをあえて、くらせみきお著「小林多喜二を売った男」は、宮顕の意向通りに「小林多喜二を売った男・三船留吉説」をプロパガンダしているという役割を果たしている。我々は、こういうものを鵜呑みにすべきであろうか。これを鵜呑みにするのが昨今流行の自称知識人の悪癖であるが、よほどオツムが弱いと云うべきだろう。

 そういう意味で、「小林多喜二を売った男」のグーグル検索で見つけただけなのだが、れんだいこが日頃兄事させていただいている加藤哲郎教授の書評に触れねばならない。申し訳ないが批判させていただく。加藤教授は次のように述べている。

 概要「スパイMと本書の主人公三舩留吉は、特高警察の奇才毛利基が用いた二人の最重要人物だった。小林多喜二も属した日本共産党の不幸は、この二人の大物スパイの正体を見究めることができないまま、それより格下の大泉兼蔵と、スパイであったかどうかも疑わしい小畑達夫を査問・リンチし、小畑を死に至らしめたことであった」
 (http://homepage3.nifty.com/katote/mifune.html)。

 この評はいかがなものだろうか。れんだいこは、1として三船を「スパイM」と並ぶほど大物視することに対する疑問がある。2として、宮顕派により査問テロされた大泉、小畑を「それより格下」だったとは思わない。4名しか居なくなった当時のれっきとした党中央委員である。能力的には小物だっかも知れないが党組織上は最高幹部である。

 尤も、教授が続いて「スパイであったかどうかも疑わしい小畑達夫を査問・リンチし、小畑を死に至らしめた」と明確に記述している下りの評価は惜しまない。こう書ける識者は滅法少ない。日共系御用学者よ、加藤教授は少なくともこの程度には発言しているぞ。教授の爪の垢でも煎じてみたらどうだ。しかしそれより何より、加藤教授が 「小林多喜二を売った男・三船留吉説」に違和感を表明せず同調しているのが気に入らない。

 以上、「れんだいこの『小林多喜二を売った男』書評その2」とする。仕舞いはこういうことが云いたくなる。本件に限らず、あれこれの検討課題に於いて、仮にれんだいこの見立ての方が正解だったとした場合、不正解見解をプロパガンダする書物を読んで賢くなるだろうか。現代はこういう手合いの「誤誘導結論押し付け書籍の氾濫時代」ではなかろうか。れんだいこが得心して読めたり、ハタと膝を打つようなものはめっきり少ない。ネット情報然りである。本当に知りたい情報がまだまだ表へ出て来ていない。

 「誤誘導結論押し付け書籍」だろうと読めばそれなりに知識は深まる。だが、下手な結論まで鵜呑みにすることにより却って馬鹿になりはしまいか。知識人必ずしも賢ならずの所以がここにある。我々は良書によって導かれねばならない。本書をそういう事を考える一助にしたい。

 2008.6.29日 れんだいこ拝

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